一期一会

珈琲飲みながら、一番奥の席で一人静かに本を読んで過ごすこと。週一回、この数時間が一番心からくつろげる時間。平日だから人も少なく、気兼ねなく居られるのもまた心地良い。ほぼ毎週のルーティンになったカフェ通い。これには訳がある。

昨年10月。職場である飲食店で、お客様同士のいざこざがあった。理由は席を立った際に腕が当たって飲み物をこぼしてしまったというものだ。よくある話だけど、お客様のお召し物にかかってしまい、謝罪が軽いものでつい苛立ってしまったと。止めに入った私はタイミング悪く冷水をかけられてしまった。

その状況を見たご婦人からハンカチを渡された。”とりあえずこれで拭いて、風邪引いたら大変だから”と。さらにご婦人は別のスタッフを呼んでくれて、私は後ろへ下がった。しばらくすると落ち着いたのか、お客様は退店していていつもの店内になっていた。ご婦人も退店していた。ご婦人の事をスタッフへ聞いたところ、近くのカフェへ行くという話をしていたそうで、慌ててそのカフェへ行ったが出会えなかった。

次の日、洗濯したハンカチを持ってカフェへ行った。カフェの店員さん曰く、ご婦人は常連のお客様とのこと。ここで待っていたら会えるかもと思い、珈琲を頼み一番奥の席で待ってみる事にした。1時間くらいか、スマホをいじりながら時間を潰していたが、ご婦人に会うことは無かった。

平日の午後14時過ぎ、おやつタイムよりも早くご婦人はカフェに来るらしい。休みの度にハンカチを持ってカフェに行くが会えない。カフェ店員さんと話す機会は増えたけど、あのご婦人には会えない。来た時に渡しましょうかと話はあったが、直接渡してお礼を言いたかったので丁重にお断りした。

年が明けた2月。もう毎週のルーティンになったカフェ通いのある日、いつものように過ごしていたら、店員さんが珍しく席に来た。”聞きましたか。探されていたご婦人、先週亡くなったそうです”と。

ご婦人は持病があり年末から入院されていたそうで、ご婦人とよく一緒に来ていた人から聞いたとのこと。頭が真っ白になり、何を言って良いか分からず言葉が出てこなかった。鞄の中にはいつものハンカチが入っている。

何故こんなに会いたかったのだろうか。接客業をしていると色んなお客様に出会うが、優しいお客様からの言葉で救われる事も少なくない。今思えば亡くなった祖母に似ていたかもしれない。とても可愛がってくれた祖母に会いたくて、私はご婦人を探していたのかもしれない。一期一会の出逢いだったとも知らずに。

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